BodyTalk

自閉症を克服するまでの長い道のり〜脳神経学者の母と娘の物語

世界自閉症啓発デー

4月2日は世界自閉症啓発デー。

全世界で自閉症への理解を深める日としてさまざまな取り組みが行われています。

ボディートークは自閉症やASD(自閉スペクトラム症)、発達障害の人たちが生まれもった特性を活かして生きることをサポートするために広く用いられている療法であるとともに、“ふつう”とは異なる多様な個性が受け入れられ活躍できる社会を育てるためにも大いに貢献できるものです。

この日に寄せて、自閉症の娘を育てながら脳の専門家として自閉症を研究してきた脳神経学者の知見から、自閉症の人のなかでほんとうは何が起きているのか、なぜボディートークが有効なのかについてお伝えします。

脳科学による自閉症研究 きっかけは愛娘の自閉症

IBA(International BodyTalk Association)のカンファレンスでは毎回、ボディートークに取り入れられているさまざまな最新の科学的知見について、その第一人者である専門家を招いて講演が行われます。

その講演者のなかのひとり、南アフリカのハンリー・ムールマンスムーク博士は生化学の分野において国内外で優れた功績を認められ受賞歴も豊富な脳神経学者ですが、2005年に当時3歳だった愛娘のシモーンちゃんが重度の自閉症と診断されたことをきっかけに、自らの専門である脳科学やブレインマッピングを用いて自閉症の研究に取り組むようになり、今ではその道の権威とも呼ばれている方です。

脳科学の視点から自閉症を解き明かしていくだけでなく、ときに葛藤しながらも自閉症児に寄り添ってきた母としての個人的経験を踏まえたプレゼンテーションには説得力があり、ボディートークをどのように活用してこられたか、なぜボディートークが自閉症の改善に効果的なのかも明確に提示されていてとても勉強になりました。

自閉症児はスーパーヒューマン!

この日ムールマンスムーク博士が繰り返し口にしていたのはシモーンちゃんへの感謝の気持ちです。

娘は最高の教師であり、親としてともに過ごす日々のなかでたくさんのことを学ばせてもらっていると。

自閉症児はまさにスーパーヒューマンであり典型的な負のイメージに囚われていてはいけないともおっしゃっていました。

そのことを実感する最初のきっかけとなったのは、診断が下った直後からはじめたABA(応用行動分析学)のトレーニングにまつわるできごとだったそうです。

ABAは欧米で自閉症児の早期療育に広く用いられており、専門の訓練を受けたセラピストが一対一でコミュニケーションの取り方を教えたり、問題行動を改善させていくものです。

当初は一定の効果が上がっていたそうですが、一年半を過ぎた頃から雲行きが怪しくなっていきました。

もともと穏やかで優しい性格で人に手をあげることなど決してなかったシモーンちゃんが、チューターを叩くといった攻撃的なふるまいをみせるようになったのです。

同じ頃、シモーンちゃんへのボディートーク・セッションでは(自閉症の診断以前から家族のヘルスケアとしてボディートークを取り入れていてときどきセッションを受けていたそうです)セラピストとの関係性の問題が浮かび上がり、シモーンちゃんがセラピストに不信感や拒絶感を抱いていることが明らかになりました。

誠実に仕事をこなすとても優秀なセラピストで何ら問題はないように見えてはいましたが、娘は違う何かを感じ取っているのかもしれない。

そう考えたムールマンスムーク博士はそれとなくセラピストの女性に声をかけじっくり話を聞いてみたところ、彼女は恋人との仲がうまくいかなくなって悩んでいたことがわかったといいます。

シモーンちゃんはそのネガティブなエネルギーに反応していたんです。

きわめて高い感受性

ふつうの人間付き合いのなかでは隠し通せる心の内も、自閉症児はかんたんに見抜いてしまうということですね。

他にも誰かと喧嘩をした直後の人が部屋に入ってくると、平静を装っていてもシモーンちゃんが明らかに反応するので、それを見て何かあったんだなと気づくとか、夫(シモーンちゃんの父親)が腰を痛めて帰ってきたときには、見た目にはわからない程度の軽傷でまだ何も話していなかったにもかかわらず、シモーンちゃんが腰に手をあてて「パパ、痛い」と言ったとか、彼女の超人的な感覚の鋭さを思い知らされる場面は日常のなかで数えきれないほどあるそうです。

このようにきわめて繊細な感覚をもつ人はHSPと呼ばれ、これは自閉症の人に共通する特性のひとつでもあります。

一般的に自閉症の人は空気が読めない、表情やボディーランゲージが読めない、他の人の立場になって考えられないなどと言われていますが、実は平均的な人よりもはるかに高い感受性をもち、物事をより本質的に捉える力に長けていると博士は断言します。

むしろかけ離れたレベルで感じとりすぎているからこそコミュニケーションが難しくなっているのだと。

現代社会では自閉症は病気であり障害とされているわけですが、古からつづく先住民の文化のなかではそのような特性をもつ人は不思議な力を授かった神の使いとされ、シャーマンとして崇められることが多かったのも頷けますね。

わたし自身はギフティッドなのですが、ギフティッドはASDに誤診される確率が高いことからもわかるように特性の多くが自閉症のそれと似ていて、まさにシモーンちゃんと同じようなレベルで他人の意識や感情を読み取ってしまうことが生きづらさの主な原因のひとつになっていました。(参照→繊細すぎるあなたへ〜HSPでも楽に生きられるようになったわけ

でも周りのふつうの人たちの目には意味もなく感情的になり、わけもなく不機嫌になる情緒不安定でわがままなこどもでしかありません。

そうじゃない! ぜんぶ理由があるのに!と思っても、自分に見えているものが他の人には見えていないことも悟っていたので、理解されるはずがないというあきらめと苛立ちで悶々とするだけの日々でした。

“ふつう”とは異なる感じ方もあるのだという発想のもと、こどもの変化や反応にどんな意味があるのかを理解しようとするムールマンスムーク博士のような親であったなら、自分もどんなにか救われていたことか…。

だからこそ、自閉症児に限らずこどもが何を感じているのか、こどもの内面で何が起きているのかを窺い知るための手がかりとしても、ボディートークを活用する親御さんが増えることを心から願っています。

“標準”を押しつけるのではなく個性に合った方法を見つける

さてABAに話を戻すと、このあとすぐにやめたそうです。

というのも、ABAでは動物をしつけるのと同じ考え方で(動物に対してさえそのような手法は適切とは言えませんが)トレーニングを進めていくんです。

こどもが泣き叫んで拒否しても指示どおりにできるまで続ける。

ムールマンスムーク博士はその光景を見ていて母として胸が張り裂ける思いだったといいます。

シモーンちゃんの心にも傷を残してしまうことは想像にたやすく、こどもが幸せに生きていけるようにするためではなく、おとながこどもをコントロールしやすい状況を作ることを目的としたこのやり方では解決策にはならないという結論に至ったのです。

博士いわく、自閉症のこどもは物事を学習する方法がふつうのこどもとは異なっていて、さらにそのことをはっきりと自覚しています。

そして、自分に何ができて何ができないか、自分にとって何が適していて何が適していないかを、平均的なこどもよりも明確に把握しているそうです。

だから「できない」「やらない」と決めたことはなにがなんでもやらない。

これもわたし自身の特性そのものなのでよくわかるのですが、だから標準的に良しとされている方法で物事を学習させようとしてもうまくいかないんですよね。

つまり一律に“ふつう”を無理強いするのではなく、それぞれの特性に合わせたトレーニング法を見つける必要があるということです(ABAが有効なケースもある)。

脳科学の知見をふまえたボディートーク・セッション

ABAが助けにならないとわかったあと、ムールマンスムーク博士はなんとか少しでも娘の力になりたいとの思いから、自らボディートーク認定施術士の資格を取得するとともに、より経験豊富な施術士や創始者であるヴェルトハイム博士によるセッションも定期的に受け続けることになります。

それと同時に脳科学の観点から自閉症のメカニズムを解明する研究も精力的に進めていきました。

その成果はボディートークのテクニックにも取り入れられており、ボディートーク療法の発展にも大いに貢献しています。

今回の講演では自閉症の人の脳神経系やその他のどの箇所にどのようなアンバランスが生じている可能性があるかについて具体的に詳しくご教授いただきました。

今後はこれらの知識を踏まえてより効果的なセッションを提供していきたいと思いますが、そのなかでとくに興味深かったことをいくつか次に挙げてみます。

発症の原因、影響はさまざま

まず発症の原因について。

自閉症は先天的なものと考えられがちですが、明らかに遺伝的な要因が認められるケースは全体の10%程度にすぎず、多くは何らかの理由により脳の発達段階で乱れが生じたことが原因となっているそうです。

その結果として生じるアンバランスの内容や程度は人によりさまざまで、脳だけでなく他の器官や循環器系、免疫系、代謝などいろんな面に影響が出る可能性があります。

さらには重金属や化学物質などの環境的要因がからんでいるケースもあるとのこと。

この点で個々のケースに応じて調整が必要な箇所を特定できるボディートークがきわめて有効であると博士は強調されていました。

言葉が遅い? 実は…

また自閉症の特徴としてよく知られているのは言葉の遅れですが、実は自閉症の人の脳では言語のインプットを司る部分は平均的な人よりも高度に発達している傾向があるそうです。

つまり言語を理解する能力はふつうの人よりも優れているんですね。

一方で理解した言語に反応して発話する能力を司る部分は発達が遅れていて、アウトプットが苦手で自分の考えや感覚をうまく言語化できないため、言葉を理解していないと見なされてしまうのです。

そして、理解していないと見なされていることも本人はしっかり認識できるのでそれがさらなるストレスになるわけです。

わたし自身は現在言葉を扱う仕事で成功していることからもわかるように、言語能力はインプット、アウトプットともに高いのですが、自分が言葉を発したときに相手が自分の意図をどの程度理解したか、あるいは理解しなかったか、どの部分をどのように誤解、曲解したかをすべて読み取ってしまうため、言葉が正確に機能していないというストレスが大きく、ごく一部の言語コミュニケーションに敏感な人以外とはあまり話さないこどもでした(大人になった今では誰とでも社交としてある程度の会話はします)。

その結果、家では必要な連絡事項以外ではほとんど口を開くことがなかったので、あんなにしゃべらないのはなにか異常があるのではないかと母親が教師に相談しているのを聞いたことがあります。

まあこれは自閉症の問題というよりギフティッドがASDに誤診されやすい要因のひとつだと思いますが、“言葉の遅れ”と見なされる状況も一般に考えられているほど単純なものばかりではないのかもしれません。

トレーニング+ボディートークで相乗効果

シモーンちゃんはボディートークと並行してニューロフィードバックやブレインジムといった脳のトレーニングを続け、10歳を迎える頃には「こんなに社交的なのに本当に自閉症なの?」と言われるほど明るく元気な女の子に成長しました。

ムールマンスムーク博士によると、中程度までの自閉症であればボディートークだけでもじゅうぶんな改善が期待できるとのことですが、シモーンちゃんのような重度の自閉症の場合には他のトレーニング法も同時に行う必要があります。

その際、ボディートークで体と心のバランスを整えながらトレーニングを実施すれば効果がより上がりやすくなります。

このように複数の支援策を組み合わせて相乗効果を得ることが重要なのです。

多様性の時代へ “ふつう”に矯正ではなく個性を生きる

“ふつう”という概念で縛られたこの世界に変化をもたらすために生まれてくる自閉症のこどもたち。

彼らが何を見て、何を感じているかを知ろうとすればそこから学べることはたくさんあります。

“ふつう”に矯正するのではなく、それぞれがもつ特性の良い面を発揮できるようにバランスを整えて自分らしく生きればいいというムールマンスムーク博士の理念には共感しかありませんし、それはボディートークの哲学とも完全に一致しています。

アメリカのデータではありますがCDCによると2018年時点で59人に1人のこどもが自閉症スペクトラム(ASD)と診断されています。

また診断のあるなし、大人こどもに関わらずアスペルガー症候群、発達障害など自閉症的な傾向をもつ人は少なくないと思います。

そういったすべての人を生きづらさから解放してくれるのがボディートーク。

脳科学者のお墨付きです。

タイトルとURLをコピーしました